はじめに:なぜ今、この補助金に注目すべきなのか
日本の中小企業が直面している最大の経営課題の一つが「事業承継」です。経営者の高齢化が進む中、後継者不在を理由とした廃業件数は年々増加しており、優れた技術・ブランド・雇用が失われていく現状は社会的損失と言えます。
こうした背景を受け、中小企業庁が長年にわたって継続してきた支援策が「事業承継・M&A補助金」です。制度名や内容は変更されながらも、10年以上にわたって継続されてきた歴史ある補助金であり、今年度も引き続き公募が予定されています。
注目すべき点は、採択率が約60%と高水準であることです。一般的な補助金の採択率が20〜40%程度であることを考えると、準備さえ整えれば採択の可能性が高い、中小企業にとって非常に活用しやすい制度と言えます。
ただし、公募開始から申請締切までの期間が短くなる傾向があります。「公募が始まってから動こう」では間に合わないケースも多く、今から準備を始めることが採択への最短ルートです。
事業承継・M&A補助金とは|制度の基本概要
対象となる事業者
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象業種 | 全業種対象 |
| 対象地域 | 全国 |
| 対象者① | 今後5年以内に事業承継を予定している方 |
| 対象者② | 今後1年以内にM&Aを予定している方 |
中小企業庁が所管する本補助金は、事業承継・M&Aの「実施時期」に応じて複数の申請枠が設けられています。現在は4つの申請枠で構成されており、自社の状況に合わせて最適な枠を選択します。
制度が支持される3つの理由
① 採択率が高い 採択率は約60%程度。多くの補助金では30%前後が標準的ですが、本補助金は準備が整った申請であれば採択の可能性が十分あります。
② 補助上限額が大きい 最大で1,000万円(一定の賃上げ要件を満たした場合)の補助が受けられます。設備投資やM&A費用の一部を国が支援してくれる、経営者にとって大きなメリットです。
③ 10年以上続く安定した制度 制度が継続されることへの安心感は、経営判断においても重要です。単年度限りの補助金ではなく、継続的に見直しながら運用されてきた制度であるため、支援の枠組みが成熟しています。
申請枠①:事業承継促進枠|親族・従業員承継を支援
こんな方に向いています
「5年以内に子どもや従業員に会社を引き継ぐ予定がある」という経営者のための申請枠です。後継者候補が決まっており、承継に向けた設備投資や体制整備を進めたい方は、まずこの枠の検討から始めましょう。
補助条件の詳細
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 補助率 | 1/2〜2/3 |
| 補助上限額 | 800万円(賃上げ実施の場合は1,000万円) |
| 補助対象経費 | 設備費 等 |
主な申請要件
本申請枠には、いくつかの重要な要件があります。見落としがちなポイントも含めて整理します。
【要件1】対象期間 将来、おおむね5年以内に事業承継を行うことが前提です。漠然と「いつか承継する」ではなく、具体的なスケジュールを持って申請に臨む必要があります。
【要件2】承継予定者の条件 後継者には2つのパターンがあり、それぞれ条件が異なります。
- 従業員が後継者の場合:申請時点で3年以上の勤務実績があること
- 親族が後継者の場合:代表経験がないこと(現時点で代表取締役等を務めていないこと)
また、申請時点で要件を満たす後継者が在籍していることが必須です。後継者が決まっていない状態では申請できません。
【要件3】承継する内容 単に「仕事を引き継ぐ」だけでは不十分です。本補助金では、以下の2つをセットで承継することが求められます。
- 経営権(代表権)
- 所有権(株式)
「経営は引き継ぐが、株式は手元に残す」というケースでは要件を満たさない可能性があります。弁護士・税理士・中小企業診断士などの専門家に確認しながら進めることをお勧めします。
補助上限1,000万円を狙う「賃上げ要件」
通常の補助上限は800万円ですが、一定の賃上げを実施した場合は1,000万円まで引き上げられます。賃上げ計画を事業計画に盛り込むことで、より多くの補助を受けられる可能性があります。従業員の処遇改善と補助金活用を同時に実現できる点は、経営戦略上のメリットとも言えます。
申請枠②:専門家活用枠|M&Aの売り手・買い手を両方支援
こんな方に向いています
「1年以内にM&Aを実施したい」、あるいは**「M&Aで会社・事業を売却・譲渡する予定がある」**という方のための申請枠です。買い手だけでなく売り手も申請できるのが特徴で、M&A仲介費用やFA(ファイナンシャルアドバイザー)費用が補助対象となります。
補助条件の詳細
| 項目 | 買い手支援類型 | 売り手支援類型 |
|---|---|---|
| 補助率 | 2/3(100億企業特例:1/3〜1/2) | 1/2〜2/3 |
| 補助上限額 | 600万円(DD費用上乗せの場合800万円)/100億企業特例:2,000万円 | 600万円(DD費用上乗せの場合800万円) |
※DD=デューデリジェンス(M&A前の詳細調査)
主な申請要件
【要件1】登録M&A支援機関の利用 補助対象となるのは、「M&A支援機関登録制度」に登録されたFA・仲介業者によるサービス費用です。登録されていない業者への費用は補助対象外となるため、事前に確認が必要です。
【要件2】交付決定後の契約締結(最重要) アドバイザリー契約等は、必ず補助金の交付決定後に締結することが求められます。これは非常に重要なポイントです。「先に契約してしまった」という理由で補助が受けられないケースが多発しているため、順序を間違えないよう注意してください。
スケジュールのイメージ:
申請 → 採択・交付決定 → アドバイザリー契約 → M&A実施 → 実績報告
【要件3】M&A最終契約のタイムライン 交付決定後、概ね1年以内にM&Aの最終契約も必要となります。逆算すると、M&Aの進捗状況が一定程度進んでいる段階で申請することが現実的です。
【100億企業特例について】 補助上限が2,000万円に拡大される「100億企業特例」は、中小企業庁の「100億宣言」に申請し、「100億企業成長ポータル」のサイト上で公表されることが条件です。成長意欲のある中小企業にとって、積極的に検討する価値のある選択肢です。
誰が活用できるか|対象別・活用シーン
中小企業の経営者・後継者の方
- 5年以内に親族・従業員への事業承継を予定しているなら「事業承継促進枠」
- 1年以内のM&Aを検討しているなら「専門家活用枠」(売り手・買い手の双方で申請可)
- M&A売却益を次の事業投資に充てたい場合も、補助金で仲介費用を抑えることで手取りが増える
M&A支援機関・仲介業者の方
- アドバイザリー契約前の段階のお客様に対して、仲介費用の一部が補助対象となることを提案できます
- 顧客の費用負担を軽減することで、成約率の向上や新規顧客獲得につながります
メーカー・設備会社の方
- 本補助金は他の補助金と比べて交付決定までの期間が短いという特徴があります
- 販売先の中小企業オーナーに対して、「最大1,000万円の補助金を使った設備投資」として提案できます
- 設備販売の促進ツールとして活用できる点は、営業現場での差別化につながります
申請前に必ず押さえたい事前準備
採択率60%超の補助金とはいえ、「準備不足」「制度の理解不足」による不採択事例は後を絶ちません。以下のチェックリストで、申請前に自社の準備状況を確認してください。
事業承継促進枠の事前準備
Step 1:後継者の意思確認 後継者候補が本当に承継する意志を持っているか、改めて確認しましょう。申請書類には後継者の情報が必要になります。
Step 2:要件の充足確認
- 後継者が従業員の場合:3年以上の勤務期間を満たしているか
- 後継者が親族の場合:現在代表職に就いていないか
- 承継する内容:経営権(代表権)+所有権(株式)のセット承継が可能か
Step 3:補助対象経費の見積もり取得 設備投資等の見積書を取得し、補助金の申請規模感を把握しましょう。
専門家活用枠の事前準備
Step 1:登録M&A支援機関への相談 まず、M&A支援機関登録制度に登録されている仲介業者・FAに相談し、スケジュール感を確認します。
Step 2:交付決定前の契約締結を絶対に避ける 繰り返しになりますが、アドバイザリー契約の締結は交付決定後が絶対条件です。この点はM&A支援機関側にも事前に確認・共有しておいてください。
Step 3:M&Aのタイムラインを逆算する 交付決定から1年以内に最終契約が必要なため、M&Aのデューデリジェンスや条件交渉の進捗状況と照らし合わせて、申請のタイミングを判断します。
共通の準備:加点を狙う認定制度の活用
本補助金では、別制度の認定を取得することで加点が得られます。採択率をさらに高めたい場合は、以下の認定取得も同時進行で検討しましょう。
| 認定制度 | 概要 | 取得難易度 |
|---|---|---|
| 事業継続力強化計画 | 自然災害等のリスクに対する事前対策を計画化 | ★★☆(比較的取得しやすい) |
| 経営力向上計画 | 生産性向上に向けた取り組みを計画化 | ★★☆(業種別モデル計画あり) |
申請準備にかかる期間の目安
| 準備内容 | 所要期間の目安 |
|---|---|
| 事業計画の作成 | 2〜3週間 |
| 加点認定(事業継続力強化計画等)の取得 | 1〜2週間(並行して進行) |
| 見積書・後継者関連書類の収集 | 1〜2週間 |
| 合計(すべて含む) | 約1ヶ月〜1ヶ月半 |
公募開始後すぐに動いても、書類収集や事業計画の作成には一定の時間がかかります。今のうちから準備を始めることが、採択率を高める最大の秘訣です。
よくある質問(FAQ)
Q. 事業承継の予定はあるが、後継者がまだ決まっていない。申請できますか?
A. 申請時点で要件を満たす後継者が在籍していることが条件です。後継者が確定していない段階での申請は困難です。まずは後継者候補の選定から着手しましょう。
Q. M&Aの買い手と売り手が同じタイミングで申請できますか?
A. はい、可能です。同一のM&A取引において、買い手企業・売り手企業がそれぞれ個別に申請することができます。
Q. 補助金の申請は自社で行えますか?
A. 申請自体は自社で行うことも可能ですが、事業計画の作成や要件確認には専門的な知識が求められます。中小企業診断士や認定支援機関に依頼・相談することで、採択率向上が期待できます。
Q. 設備費以外の費用は補助対象になりますか?
A. 申請枠や年度によって対象経費の範囲が異なります。最新の公募要領を確認するか、専門家に相談することをお勧めします。
Q. 申請締切はいつですか?
A. 年度ごとに公募スケジュールが発表されます。公募開始から締切まで期間が短くなる傾向があるため、中小企業庁のウェブサイトや支援機関の情報を定期的にチェックしてください。
まとめ:「採択率60%超」を活かすには、今すぐ動くことが重要
本記事で解説した「事業承継・M&A補助金」のポイントを整理します。
制度のポイント
- 業種・地域問わず全国の中小企業が対象
- 採択率約60%と高水準、最大1,000万円の補助
- 4つの申請枠があり、自社の状況に合わせて選択
- 10年以上続く安定した支援制度
事業承継促進枠(5年以内に承継予定の方)
- 補助率1/2〜2/3、上限800万円(賃上げで1,000万円)
- 後継者の要件・承継内容のセット確認が必須
専門家活用枠(1年以内にM&Aを予定の方)
- 買い手・売り手の双方が申請可能
- 交付決定後の契約締結が絶対条件
- 上限600〜800万円(DD費用含む)、100億企業特例で2,000万円
採択率が高い補助金ではありますが、制度の理解不足・準備不足による不採択も多く見られます。特に、事業計画の作成・後継者要件の確認・専門家との連携には一定の時間が必要です。
事業承継やM&Aを検討している経営者の方は、今すぐ専門家への相談と事前準備を開始することをお勧めします。
当方では本サービスをはじめとした公的支援の利用についてもご相談を承っています。お気軽にご相談ください。
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