「現在の事業を、さらに大きく成長させたい」
「新しい工場や物流拠点をつくり、生産能力を一気に高めたい」
「10年後を見据えて、売上高100億円を目指せる会社にしたい」
このような成長志向の中小企業に、ぜひ知っていただきたい制度が「100億宣言」です。
100億宣言とは、その名のとおり、企業が「売上高100億円」という大きな目標を掲げ、その実現に向けたロードマップを国のポータルサイトで公表する制度です。
単に「100億円を目指します」と宣言するだけの制度ではありません。
100億宣言を行うことで、最大5億円の「中小企業成長加速化補助金」や、最大50億円の「大規模成長投資補助金」の100億宣言企業向け類型、さらに建物まで対象となる税制優遇措置など、大型の支援策を活用できる可能性があります。
つまり100億宣言は、成長企業にとって「大型投資を実現するための入口」ともいえる制度なのです。
本記事では、100億宣言の仕組みから、補助金・税制優遇などのメリット、実際に制度を活用するまでの流れまで、2026年9月時点の最新情報をもとに分かりやすく解説します。
100億宣言とは?
「100億宣言」は、中小企業が飛躍的な成長を遂げるため、自ら「売上高100億円」という目標を掲げ、その実現に向けた取り組みを宣言する制度です。
対象となるのは、原則として売上高10億円以上100億円未満の中小企業です。
企業グループで宣言することも可能ですが、その場合はグループ全体の売上高が10億円以上100億円未満である必要があります。
宣言では、主に次の内容を明らかにします。
| 宣言する内容 | 概要 |
|---|---|
| 企業概要 | 現在の売上高、従業員数など |
| 100億円達成の目標 | いつまでに売上高100億円を実現するのか |
| 現在の課題 | 成長を阻害している経営上の課題 |
| 具体的な取り組み | 生産能力増強、海外展開、M&A、新規事業など |
| 実施体制 | 成長戦略を実行する社内体制 |
| 経営者のコミットメント | 100億円実現に向けた経営者自身のメッセージ |
つまり、100億宣言とは、企業の「成長戦略を一枚のロードマップとして可視化する制度」と考えると分かりやすいでしょう。
宣言内容は「100億企業成長ポータル」に掲載され、外部からも閲覧できるようになります。
制度開始以降、宣言企業は急速に増加しており、2026年9月15日時点で3,690社が掲載されています。
100億宣言を行う3つのメリット
では、企業が100億宣言を行うと、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。
大きく分けると、
①大型補助金
②税制優遇
③信用力・ネットワーク
という3つがあります。
特に①と②は、大規模な設備投資を計画している企業にとって非常に大きなメリットとなります。
メリット① 最大50億円。2つの大型補助金を活用できる
100億宣言の最大のメリットの一つが、大型補助金への申請につながることです。
代表的なのが、次の2制度です。
| 中小企業成長加速化補助金 | 大規模成長投資補助金・100億宣言企業向け | |
|---|---|---|
| 補助上限額 | 5億円 | 50億円 |
| 補助率 | 1/2以内 | 1/3以内 |
| 最低投資額 | 1億円以上 | 15億円以上 |
| 主な対象 | 建物、機械装置、ソフトウェアなど | 建物、機械装置、ソフトウェアなど |
| 主な賃上げ要件 | 従業員1人当たり給与支給総額を年平均4.5%以上引き上げ | 対象事業に関わる従業員等1人当たり給与支給総額を年平均4.5%以上引き上げ |
| 想定される投資 | 工場・店舗・物流拠点・生産設備など | より大規模な工場・物流拠点・生産設備など |
特に注目したいのが、「建物」も対象になり得ることです。
一般的な補助金では、機械装置やITシステムは補助対象になっても、工場や店舗などの建物そのものは対象外となるケースが少なくありません。
一方、これらの大型補助金では、制度の要件を満たせば、工場や物流拠点などの新設・増築を伴う大規模投資にも活用できます。
例えば、
「新工場を建設して生産能力を2倍にする」
「新たな物流拠点を設け、全国への配送能力を強化する」
「新店舗・新拠点と最新設備を一体的に整備する」
といった成長投資です。
数億円、数十億円規模の投資を検討している企業にとって、補助率1/2あるいは1/3という支援は、投資判断そのものを変える可能性があります。
大規模成長投資補助金ではハードルも下がる
大規模成長投資補助金の一般企業向け類型では、最低投資額は20億円以上です。
これに対して100億宣言企業向け類型では、最低投資額が15億円以上となっています。
さらに賃上げ要件についても、一般企業向けの年平均5.0%以上に対し、100億宣言企業向けでは年平均4.5%以上です。
100億円という高い成長目標を掲げる代わりに、大型投資を後押しする仕組みが用意されているわけです。
なお、中小企業成長加速化補助金の3次公募は、2026年9月29日から10月29日15時までとなっています。
重要なのは、3次公募では補助金の申請までに100億宣言がポータルサイト上で公表されていることが原則として必要という点です。
「補助金を見つけてから100億宣言を考える」のでは、間に合わない可能性があります。
大型投資を検討している企業ほど、早い段階から100億宣言と事業計画をセットで準備しておくことが重要です。
メリット② 「経営力向上計画(E類型)」で建物も税制優遇の対象に
もう一つの大きなメリットが税制優遇です。
令和7年度税制改正によって、中小企業経営強化税制に「経営規模拡大設備(E類型)」が新設されました。
大きな特徴は、従来の機械装置などに加えて、一定の要件を満たす建物・建物附属設備も税制優遇の対象となったことです。
工場や物流施設、店舗などへの大型投資を検討する企業にとって、非常に重要な制度です。
経営力向上計画・E類型の税制優遇
| 投資対象 | 税制措置 |
|---|---|
| 機械装置等 | 即時償却 または 税額控除10% |
| 建物・附属設備 | 特別償却15% または 税額控除1% |
| 建物・附属設備(賃上げ5%以上) | 特別償却25% または 税額控除2% |
※機械装置等の税額控除について、資本金3,000万円超1億円以下の法人は7%となります。
E類型には、投資利益率、売上高成長率、現在の売上規模、投資額、賃上げなど複数の要件があります。
例えば、前年度売上高については10億円超90億円未満、最低投資額については1億円以上または前年度売上高の5%以上などが要件となります。
したがって、「100億宣言をすれば自動的に税制優遇を受けられる」というわけではありません。
100億宣言とは別に、E類型および経営力向上計画の要件を満たす必要があります。
5億円を投資した場合、どれくらい変わる?
例えば、一定の要件を満たす企業が、
工場:3億円
機械装置:2億円
合計5億円の設備投資を行い、賃上げ率5%以上の要件を満たしたとします。
建物について特別償却を選択した場合、3億円×25%=7,500万円を通常の減価償却とは別枠で特別償却できます。
一方、税額控除を選択すれば、3億円×2%=600万円を法人税額から直接控除できる可能性があります。
機械装置2億円については、要件を満たせば2億円を即時償却するか、原則として取得価額の10%にあたる2,000万円の税額控除を選択できます。
| 投資 | 即時・特別償却を選択 | 税額控除を選択 |
|---|---|---|
| 工場3億円 | 特別償却7,500万円 | 600万円 |
| 機械2億円 | 即時償却2億円 | 2,000万円 |
| 合計 | 大幅な初年度費用化 | 最大2,600万円相当※ |
※実際の適用額には法人税額に対する控除上限などがあります。
「補助金をもらう」だけでなく、大型投資後の税負担まで含めて資金計画を設計できることが、100億宣言を軸とした支援策の大きな魅力です。
なお、E類型では投資計画の確認申請前に着工した建物は対象外となるなど、投資の順序にも重要なルールがあります。工場建設などを検討している場合は、着工前の段階から制度利用の可否を確認しておくことをおすすめします。
メリット③ 「100億円を目指す会社」であることを社外に発信できる
100億宣言には、補助金や税制だけではないメリットもあります。
宣言した企業は、国が運営する100億企業成長ポータルに掲載されます。
つまり、
「当社は現状維持ではなく、100億円企業を目指して成長投資を行う会社です」
というメッセージを社外に発信できるわけです。
これは取引先だけでなく、金融機関、採用候補者などに対する企業PRにも活用できます。
さらに100億宣言企業には、ロゴマークの使用や、宣言企業を対象とした「100億企業創出経営者ネットワーク」への参加といった機会も用意されています。
全国でセミナーやシンポジウムなどが開催されており、同じように100億円を目指す経営者と、地域や業界を越えて交流できます。
大型投資、海外展開、M&A、人材採用、新規事業。
企業が10億円から30億円、50億円、そして100億円へと成長していく過程では、これまでとは異なる経営課題に直面します。
同じ成長ステージを目指す経営者とのネットワークそのものが、100億宣言の隠れた価値といえるでしょう。
100億宣言から補助金・税制優遇までの流れ
100億宣言を行えば、その瞬間に補助金や税制優遇を受けられるわけではありません。
基本的には、次の3ステップで進めます。
| STEP | 手続き | 主な内容 |
|---|---|---|
| STEP1 | 100億宣言を作成 | 100億円達成時期、課題、成長戦略、実施体制などを策定 |
| STEP2 | ポータルから申請・公表 | 宣言書・申請書・決算書類等を提出し、ポータルに掲載 |
| STEP3 | 各支援策へ申請 | 補助金、経営力向上計画・税制措置などを個別に申請 |
最も重要なのは、STEP1の段階で補助金や設備投資まで見据えてロードマップを作ることです。
例えば、新工場の建設を考えているのであれば、
「100億宣言を作る」
「補助金を検討する」
「税制優遇を検討する」
「工場の投資計画を作る」
と、それぞれを別々に進めるのでは効率的ではありません。
売上100億円までの成長戦略 → 必要な設備投資 → 資金調達 → 補助金 → 税制 → 賃上げ・人材戦略
までを、一つの成長ストーリーとして設計することが重要です。
特に注意したいのが、制度によって「100億宣言を申請済み」でよいのか、「ポータルサイトへの公表完了」まで必要なのかが異なることです。
中小企業成長加速化補助金の3次公募では、申請時までの100億宣言の公表が求められています。
補助金の締切直前になってから宣言を申請するのではなく、余裕を持って準備しましょう。
まとめ|100億宣言は「補助金のための書類」ではなく、10年後の会社を描く経営戦略
100億宣言は、一見すると「売上高100億円を目指す企業が行う宣言制度」に見えます。
しかし、その本当の価値は、宣言そのものではありません。
| 100億宣言のメリット | 企業にとっての意味 |
|---|---|
| 最大5億円の成長加速化補助金 | 大型設備投資の負担を軽減 |
| 最大50億円の大規模成長投資補助金 | 工場・物流拠点など大規模投資を後押し |
| 経営力向上計画E類型 | 建物を含む設備投資で税制優遇 |
| ポータルへの掲載・ロゴ利用 | 成長企業として対外的にPR |
| 経営者ネットワーク | 成長企業同士の交流・情報交換 |
重要なのは、これらを個別の制度として見るのではなく、「売上100億円を実現するための一連の成長支援策」として捉えることです。
今の売上高が10億円、20億円の会社にとって、「100億円」は遠い数字に感じられるかもしれません。
だからこそ、一度考えてみてはいかがでしょうか。
「10年後、自社をどんな会社にしたいのか」
そのときの売上高はどのくらいなのか。どんな商品やサービスを提供しているのか。どこに工場や拠点があり、何人の社員が働いているのか。
そこから逆算すれば、今後必要になる設備投資、人材、資金、M&A、新規事業なども見えてきます。
100億宣言は、単に補助金を受けるための書類ではありません。
会社の10年後を経営者自身が描き、その実現に向けて具体的な投資へ踏み出すための「成長ロードマップ」です。
「今の事業をさらに拡大したい」
「新工場や物流拠点への大型投資を検討している」
「将来的に100億円企業を目指したい」
そのような企業にとっては、100億宣言を検討する価値は十分にあります。
大型投資は、補助金だけでなく税制、資金調達、賃上げ計画まで含めた事前設計が重要です。100億宣言や関連する補助金・税制の活用をご検討の場合は、設備を発注したり建物に着工したりする前の段階から、専門家へ相談することをおすすめします。
当方では本サービスをはじめとした公的支援の利用についてもご相談を承っています。お気軽にご相談ください。
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