創業の前後は、設備や運転にまとまったお金が要ります。自己資金だけでは足りない方が多く、事業の実績がまだない時期に民間の金融機関から希望どおり借りるのは簡単ではありません。
この記事では、2026年10月時点で創業期に使える代表的な融資を、日本政策金融公庫、東京都、区の順に整理します。公庫の制度は2024年に大きく変わっていて、以前の記事や古い解説の数字は使えません。
創業融資の種類と比べ方
代表的な4つを並べると、下表のとおりです。数字はすべて公式ページから取り直しました。
| 日本政策金融公庫 新規開業・スタートアップ支援資金 | 東京都中小企業制度融資「創業」 | 東京都 女性・若者・シニア創業サポート事業2.0 | 豊島区 起業資金(区の例) | |
|---|---|---|---|---|
| 誰が貸すか | 日本政策金融公庫 | 金融機関(東京信用保証協会の保証付き) | 信用金庫・信用組合 | 金融機関(区が紹介状を出す) |
| 対象 | 新たに事業を始める方、または事業開始後おおむね7年以内の方 | 都内に事業所があり、1か月以内に個人で、または2か月以内に会社を設立して創業する計画がある方、創業5年未満の中小企業者など | 都内の女性、若者(39歳以下)、シニア(55歳以上)で、創業予定または創業後5年未満(女性は7年未満)の方。地域の需要や雇用を支える事業が対象 | 区内で起業する計画がある方、起業から1年未満の方など |
| 融資限度額 | 7,200万円 | 3,500万円 | 1,500万円以内(女性は2,000万円以内)。運転資金のみは750万円以内(女性は1,000万円以内) | 1,500万円 |
| 返済期間 | 設備20年以内、運転10年以内(いずれも据置5年以内) | 設備10年以内、運転7年以内(いずれも据置1年以内を含む) | 10年以内(据置3年以内) | 84か月以内 |
| 金利 | 基準利率。女性、35歳未満、55歳以上などは特別利率 | 創業支援特例で0.4%優遇 | 固定金利1.25%以内 | 固定金利2.1%以内。区が2.1%以内で利子補給 |
出典:日本政策金融公庫 新規開業・スタートアップ支援資金、同 創業融資のご案内、東京都創業NET 制度融資『創業』、同 女性・若者・シニア創業サポート2.0、豊島区 融資あっせんのご案内(令和8年度)
若者の年齢は公庫が35歳未満、東京都のサポート事業が39歳以下と、制度ごとに違います。申込の前に、自分がどの制度の対象になるかを一つずつ確かめてください。
日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金
概要
創業融資の中心になる制度です。対象は、新たに事業を始める方と、事業開始後おおむね7年以内の方です。融資限度額は7,200万円、返済期間は設備資金が20年以内、運転資金が10年以内で、どちらも据置期間を5年以内で設定できます。
税務申告を2期終えていない方は、原則として無担保・無保証人で各種融資制度を使えます。利率は創業支援貸付利率特例制度により、原則として0.65%(雇用の拡大を図る場合は0.9%)引き下げられます。出典:創業融資のご案内、創業支援貸付利率特例制度。
利率は時期や条件によって異なるため、この記事には書きません。申込の時点の数字は公庫の金利情報で確認してください。
利率が下がる条件
女性の方、35歳未満または55歳以上の方は特別利率Aが適用されます。創業塾や創業セミナーなどの認定特定創業支援等事業を受けて、認定市区町村が発行する有効な証明書を取得した方も、特別利率Aの対象です。ただし、証明書を取得した方でも、女性、35歳未満、55歳以上のいずれかに当てはまる場合は特別利率Bになります。特別利率は原則として土地にかかる資金を除きます。証明書の取り方は、「特定創業支援等事業」証明書の取得方法にまとめています。
そのほか、地域おこし協力隊の方や、技術・ノウハウに新規性がある方などにも特別利率があります。条件は細かいので、公庫の概要ページの一覧で当てはまるものを探してください。
自己資金の考え方
公庫の現行の概要ページには、自己資金の割合を条件とする記載がありません。ただし公庫のQ&Aは、自己資金を重要な要素のひとつとしたうえで、創業計画全体がしっかりしているかをそれ以上に重視すると説明しています。創業資金に占める自己資金の割合は、公庫の融資先の平均で2割程度です。出典:公庫 創業支援Q&A
自己資金がゼロでも通る、とは言い切れません。貯めてきた経緯や用意した額は、創業計画書の中で説明できるようにしておくと安心です。
融資までの流れ
| 1)申込 | 窓口やインターネット等で融資を申込み、創業計画書等の必要書類を提出 |
| 2)審査 | 日本政策金融公庫との面談後、諾否を決定 |
| 3)融資 | 日本政策金融公庫が融資を実行 |
公庫が直接審査して貸し出す点が、保証協会の保証を付ける制度融資と異なります。
東京都の制度融資「創業」
東京都、東京信用保証協会、金融機関の三者が協調して資金を出す仕組みです。対象は、都内に事業所(個人事業者は事業所または住所)があり、次のいずれかに当てはまる方です。
・事業を営んでいない個人で、1か月以内に個人で、または2か月以内に会社を設立して、都内で創業しようとする具体的な計画がある
・創業した日から5年未満の中小企業者等
・分社化しようとする会社、または分社化により設立された日から5年未満の会社
新しく始める事業は、信用保証協会の保証対象業種である必要があります。認定特定創業支援等事業の支援を受けて、区市町村長の証明を取った方が創業支援特例を使う場合は、創業の6か月前から申込めます。事業税その他の租税に未申告や滞納がないことも条件です(完納の見通しが立つ場合などを除く)。
融資限度額は3,500万円です。返済期間は設備資金が10年以内、運転資金が7年以内で、いずれも据置期間1年以内を含みます。信用保証料は3分の2を都が補助します。区市町村の認定特定創業支援等事業などの証明を受けると、融資利率が0.4%優遇されます。出典:東京都創業NET 制度融資『創業』、令和8年度 東京都中小企業制度融資要項(10月1日改定版)、お申込み条件。
申込は取扱金融機関に行い、信用保証協会の審査を経て、金融機関が貸し出します。審査は金融機関と保証協会の両方が行うため、所要期間は申込先や案件によって異なります。取扱金融機関との取引が始まる利点があります。
東京都の女性・若者・シニア創業サポート事業2.0
以前の記事で「女性・若者・シニア創業サポート事業」としてご紹介した制度は、現在「女性・若者・シニア創業サポート事業2.0」として続いています。信用金庫・信用組合を通じた低金利・無担保の融資と、地域創業アドバイザーによる経営サポートを組み合わせた制度です。
| 対象 | 都内の女性、若者(39歳以下)、シニア(55歳以上)で、創業の計画がある方、または創業後5年未満(女性は7年未満)の方 |
| 融資限度額 | 1,500万円以内(女性は2,000万円以内)。運転資金のみは750万円以内(女性は1,000万円以内) |
| 融資条件 | 固定金利1.25%以内、無担保、返済期間10年以内、据置期間3年以内 |
| 保証人 | 法人は必要になる場合があり、個人事業主は不要 |
| 経営サポート | 融資前の事業計画アドバイス(セミナー・個別相談)。融資実行日から最大5年間、経営アドバイス年9回、決算書作成アドバイス2回(決算書作成は融資後1年目のみ) |
利率や条件は、取扱金融機関が上の範囲で設定します。申込前に、取扱いの信用金庫・信用組合へ確認してください。出典:東京都創業NET、事業の公式サイト。
区の創業支援融資(豊島区の例)
東京23区には、区が金融機関へ利子補給する独自の融資があります。区によって条件が違うので、ここでは豊島区の「起業資金」を例にします。
限度額は1,500万円、返済は84か月以内、固定金利は2.1%以内で、区も2.1%以内の利子補給をします。この利率は、2026年4月1日から2027年3月31日までに融資が実行された場合の数字です。
対象は、たとえば次のような方です。区指定の相談員の面談(要予約、3回程度)を受けて、創業計画書を作ることが前提になります。
・事業を営んでいない個人で、申込金額以上の自己資金を持ち、必要な許認可を受けていて、1か月以内に区内で個人として、または2か月以内に新たに法人を設立して起業する具体的な計画がある(起業前の方の区分)
・事業を営んでいない個人が、区内で個人または法人として起業し、起業から1年未満
豊島区では、起業前の方の区分で自己資金の要件が明記されています。区によって扱いが違う例として覚えておいてください。
| 1)予約・面談 | としまビジネスサポートセンターへ電話で面談を予約し、相談員と3回程度の面談で創業計画書を作る |
| 2)紹介状の交付 | 創業計画書等の必要書類が整ったら、窓口に提出して紹介状を発行してもらう |
| 3)融資の申込 | 区の取扱金融機関に紹介状を持参して申込む。保証協会の審査は金融機関経由 |
| 4)融資 | 保証協会の承諾後、金融機関が融資を実行 |
紹介状が出ても、融資が約束されるわけではありません。金融機関と信用保証協会の審査で、否決や減額になる場合があります。区が紹介状を出すまでに面談が重なるので、借入までに時間がかかります。出典:豊島区 融資あっせんのご案内、豊島区の制度融資
創業融資のポイント
創業計画書が実績の代わりになる
創業期は実績がないので、審査では創業計画書が中心になります。創業の動機、経営者の略歴、商品・サービス、事業の見通し(収支計画)などを書く書類です。様式は制度ごとに用意されているため、窓口で確認してください。公庫の様式はこちらです。
限度額は上限であって、借りられる額ではない
融資額は事業内容、規模、業種、計画の中身で決まります。公庫も、審査の結果ご希望に沿えないことがあると明記しています。希望額は、設備の見積もりと運転資金の根拠を示して積み上げてください。
税金や公共料金の滞納は先に解消する
東京都の制度融資は、租税の未申告や滞納がないことが条件です。他の制度でも、申込の前に税金や公共料金(携帯電話を含む)の支払い状況を整えておくと安心です。
助成金と組み合わせる
東京都で創業する場合は、東京都中小企業振興公社の創業助成事業も検討できます。申請要件の一覧には、「女性・若者・シニア創業サポート事業2.0」の融資を受けた方、信用保証協会の保証を受けた東京都中小企業制度融資(創業)を利用した方、信用保証協会の保証を受けた都内区市町村の中小企業制度融資(創業者を対象としたもの)を利用した方が入っています。ほかの要件もあり、経費ごとの上限や受付期間は回ごとに決まります。令和8年度第2回の申請受付は2026年10月8日23時59分で終了しているため、次の募集は公社のページと最新の募集要項で確認してください。出典:創業助成事業 申請要件2一覧。最新の公募回は東京都の創業助成事業の記事で解説しています。
よくある質問
自己資金が少なくても申込めますか?
申込はできます。公庫の概要ページに自己資金の割合を条件とする記載はありません。ただし審査では自己資金も見られ、融資先の平均は創業資金の2割程度です。豊島区の起業資金は、起業前の方の区分で、申込金額以上の自己資金を条件にしています。
どの制度から検討すればよいですか?
全国どこでも使え、融資限度額が大きいのは公庫です。東京都内で、女性、若者、シニアに当てはまるなら、サポート事業2.0も比べてください。金融機関との取引を始めたい場合は、制度融資や区の創業支援融資が向きます。公庫と自治体の制度は、創業する場所と時期、必要額で選びます。
ネットで見る「新創業融資制度」は今も使えますか?
使えません。次の節で経緯を説明します。
これまでの変更
以前の記事では、公庫の「新創業融資制度」をご紹介していました。創業期の方が無担保・無保証人で借りられる制度でしたが、令和5年度いっぱい(2024年3月末)で取扱いが終了しました。出典:豊島区 融資あっせんのご案内(利子補給の対象制度の注記)。
2024年4月1日からは、税務申告を2期終えていない方の無担保・無保証人での融資限度額が、新規開業資金で3,000万円から7,200万円に広がりました。出典:日本政策金融公庫 ニュースリリース(2024年4月1日)。この資金は、その後「新規開業・スタートアップ支援資金」の名称になっています。
女性・若者・シニア向けの東京都の制度も、名称が「創業サポート事業2.0」に変わり、限度額や金利などの条件が以前と違います。古いブログや比較サイトで見かけた数字は、上の公式ページで取り直してください。
最後に
創業融資は、事業の実績に代わって創業計画書を審査してもらう仕組みです。計画書づくりは手間がかかりますが、自分の事業を数字で見直す機会にもなります。制度は毎年のように見直されるため、申込の前に公式ページで最新の条件を確かめてください。
創業計画書の作り方や、公庫・制度融資の選び方で迷う場合は、経営支援のご案内から相談できます。面談はZoomで行い、返信は通常2営業日以内です。
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