今回は、令和7年度の経済産業省の概算要求を取り上げます。
概算要求とは、翌年度の予算編成に向け、各省庁が取り組みたい内容と必要な金額を盛り込んだ要求書を財務省に提出することです。
財務省は年末にかけて予算の財務省原案を作成し、その後、政府が予算案の最終調整を行い、閣議決定を経て、年明けの国会に政府予算案が提出されます。そして、衆議院・参議院での審議を経て予算として成立します。
以下では、経済産業省が提出した令和7年度の概算要求の中から、中小企業の支援策について解説します。
経済産業省要望のポイント
大きな方向性のひとつは「中小企業の活性化」です。
中小企業対策費の要求額は1,300億円で、令和6年度当初予算額の1,082億円から約20%増です。経産省全体の増加率(約23%増)と比べても遜色なく、経産省は令和7年度も引き続き中小企業を活性化するための支援を強化していく方針と受け止めます。
では、「活性化」とはどのようなものでしょうか。
経産省は、具体的に5つの方向性を示しています。
①事業承継の後押し
事業承継税制の特例措置の要件緩和など
②100億企業(売上高100億円企業)の創出
中小企業経営強化税制(即時償却又は税額控除10%)の拡充
③人手不足や物価高騰など厳しい経営環境への対応
中小企業投資促進税制(特別償却30%又は税額控除7%)の延長
中小企業軽減税率(所得800万円まで、法人税率を19%から15%に軽減)の延長 など
④中小企業における防災・減災能力の強化
中小企業防災・減災投資促進税制(特別償却16%)の延長
⑤赤字企業の賃上げや投資の促進
設備投資に伴う固定資産税の軽減措置の延長
5つの方向性について
上記①~⑤の方向性について、それぞれの詳細をご説明します。
①事業承継の後押し
経営者の高齢化が進む中、地域経済と雇用基盤を支えるため、事業承継の円滑化を図るとともに、事業承継・再編等を契機に変革に挑戦する企業の生産性向上・成長を支援します。
◇補助金◇
「事業承継・引継ぎ補助金」を継続します。
◇税制優遇◇
後継者が取得した一定の資産について、贈与税・相続税を100%猶予する「事業承継税制の特例措置」の役員就任要件を見直します。
現行の要件では、特例措置の適用期限である2027年12月31日の3年前までに後継者が役員に就任する必要があり、その期限となる2024年12月31日が迫っているためです。
②100億企業の創出
中小企業の成長を後押しし、中堅企業への成長ポテンシャルが高い売上高が100億円を超える中小企業の創出を推進します。
◇税制優遇◇
「経営力向上計画」を策定し認定を受けた事業者に対する税制優遇(中小企業経営強化税制=即時償却又は税額控除(最大10%))を拡充し、100億企業を目指す企業に対しては上乗せ措置も検討されます。
◇補助金◇
100億企業を目指す企業の設備投資や経営課題(M&A・海外展開・人材育成等)への対応を支援する「中小企業成長加速化補助金」が創設されます。
③人手不足・物価高騰への対応
構造的な人手不足や物価高騰など、厳しい経営環境に直面する中小企業や小規模事業者に対する価格転嫁対策や資金繰り支援、省力化投資支援に万全を期すとともに、構造的賃上げの実現に向けた環境整備を図ります。
◇補助金(人手不足対策)◇
IoT・ロボット等の人手不足解消に効果がある汎用製品の導入を支援する「省力化投資補助金」を継続します。
◇税制優遇(人手不足対策)◇
生産性向上と構造的賃上げの実現に向けて、中小企業投資促進税制(特別償却30%又は税額控除7%)を延長します。
また、中小企業軽減税率(所得800万円まで、法人税率を19%から15%に軽減)を延長します。
◇融資支援(物価高騰対策)◇
利子補給や信用保証制度等を通じた新たな資金繰り支援を行います。
◇行政支援(物価高騰対策)◇
適切な価格転嫁が行われるよう、下請代金法の執行強化等を通じて取引適正化を推進します。
④防災・減災能力の強化
令和6年能登半島地震をはじめ、自然災害が全国で多発する中、中小企業における防災・減災能力の強化が一層重要性を増していることを踏まえ、これを支援します。
◇税制優遇◇
「事業継続力強化計画」を策定し認定を受けた事業者に対する中小企業防災・減災投資促進税制(特別償却16%)延長します。
【⑤赤字企業の支援】
赤字の中小企業であっても、前向きな賃上げや設備投資が引き続き可能となるよう、税制面での支援を延長します。
◇税制優遇◇
「先端設備等導入計画」を策定し市町村の認定を受け、かつ、資本金1億円以下等の税制上の要件を満たす中小企業に対し、計画中で賃上げを表明することで、固定資産税を最大5年間3分の1に軽減します。
※賃上げの表明がない場合は、「固定資産税を3年間2分の1に軽減」となります。
まとめ (活用のポイント)
今回の概算要求からは、次のことが読み取れます。
・経済産業省は、中小企業の「活性化」を本気で後押しする。
・活性化の方向性は「事業承継の後押し」「人手不足・物価高騰への対応」など5つである。
・活性化のプロセスは「人材」と「設備」に投資し、収益性を向上させることが基本となる。
・補助金と税制優遇を効果的に組み合わせて、中小企業の活性化・成長を加速させる。
また、概算要求に含まれていないことからは、次のことが読み取れます。
・新型コロナ禍を乗り越えるための救済・支援策は、ほぼ終了。
・災害関連については、防災を強化する一方で、発生から相応の期間を経た災害(東日本大震災など)に対する救済・支援策はほぼ終了。
なお、能登半島地震など直近の災害救済・支援策は継続。
国の政策に無理に合わせる必要はありませんが、政策を知ることで企業の成長につながるヒントが得られるかもしれません。
<関連情報>
・経済産業省「令和7年度概算要求・税制改正要望について」
・中小企業庁「中小企業対策関連予算」
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