コロナ禍において多くの中小企業が実質無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」などを利用した結果、過剰債務に陥っていることが散見されます。
業績はまだ回復途上にある中で、元金の返済が始まり「資金繰りが厳しい」という中小企業も少なくありません。
今回は、そうした資金繰り等の財務体質改善のための「リファイナンス(借換え)」について解説します。
リファイナンスとは何か
リファイナンスとは、新規の融資を組むことで、従来の融資残額を完済するだけでなく、新たな資金の確保や毎月の返済額の軽減・保証の見直し・金利引き下げなどを行い、借入れ条件を改善し資金繰りを円滑にすることを指します。
政府系の金融機関である日本政策金融公庫(国民生活事業)では、昔からリファイナンスの制度として「現貸決済」(げんがしけっさい)というものがあります。
例えば1,000万円の融資を受けて残高が500万円だとすると、改めて1,000万円の借入れを申し込み、残額500万円を相殺するという借換えの方法です。
返済は1,000万円分を分割で支払うことになり、実際に手元に残る資金は500万円となります。
この資金を「真水(まみず)資金」といいます。
これは金融用語で、借換えをしたときに増える金額の増額分のことです。
銀行や信用金庫など民間の金融機関でも、信用保証協会つきの融資であれば、月々の返済額の軽減等を推進する「借換保証」という制度が以前から存在しています。
中小企業政策に盛り込まれたリファイナンスの制度
コロナ禍における「ゼロゼロ融資」を利用した企業の大半は、3年ほどの据置期間が経過し、元金の返済が始まっています。
とはいえ、業績が回復せず返済が厳しい企業も少なくないため、「コロナ借換保証制度」が創設されました。
現時点では令和6年3月末日までの実施が決まっています。
この制度を利用すれば、場合によっては「真水資金」も得られ、元金の返済も先延ばしでき、資金繰りの改善が図れます。
しかし、企業の実態によっては、借換えだけでは抜本的な経営改善にならないという問題も生じています。
そのための政策として、令和5年8月には「挑戦する中小企業応援パッケージ」と銘打って、経営改善・再生支援の強化策が打ち出されました。
さらに令和5年12月には「金融機関に事業性を評価した融資を促す」という閣議決定が公表されています。
このような動きを背景に、中小企業のための新たな金融支援策が、政府系金融機関・信用保証協会・民間金融機関で開始されています。
事業再生に関連するリファイナンス制度の例を挙げると、「経営改善サポート保証制度(感染症対応型)」「信用保証付債権DDS」といった信用保証協会の制度があります。
以下、簡単にご説明します。
「経営改善サポート保証制度(感染症対応型)」
抜本的な再生を必要とする企業に関しては、認定経営革新等支援機関(税理士・公認会計士・中小企業診断士・金融機関など)が作成を支援した「再生計画」に基づく信用保証協会の保証について、据置期間を延長し、保証料の負担を軽減する制度です。
尚、令和6年3月末日迄になっていますのでご注意ください。
【経営改善サポート保証制度(感染症対応型)の概要】
保証限度額 | 2億8,000万円(一般の普通・無担保保証とは別枠) |
保証料率 | 0.2% (国による補助前は原則0.8%または1.0%) |
金利 | 金融機関所定 |
保証期間 | 15年以内 |
据置期間 | 5年以内 |
取扱期間 | 2024年3月31日まで延長 |
信用保証付債権DDS
債務超過などで通常の資金調達が厳しい企業を支援するために、既存の保証付融資の一部を資本的劣後債権へ転換を行うものです。
「資本的劣後債権」は融資ではありますが、会計上は自己資本とみなされ、元金の返済も毎月ではなく、期限到来時(例えば10年後等)でよい制度です。
【信用保証付債権DDSの概要】
対象者 | 信用保証協会を利用している中小企業者であって、中小企業活性化協議会や認定経営革新等支援機関等の支援による再生計画等を策定し、金融機関などにも相談のうえ経営改善・事業再生を図ろうとするもの |
劣後化手続 | 信用保証付債権について保証条件変更手続を行う |
期間 | 5年超(事業再生計画等で求められている期間) |
償還方法 | 原則として、期限一括返済 |
保証料率 | 通常の条件変更手続き同様、貸付実行時の保証料を適用 |
金利 | 原則として、配当可能利益に応じた金利設定 |
また、日本政策金融公庫においても、挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)という制度があり、再生を目指す企業がリファイナンスを行える可能性があります。
リファイナンスを実現するために不可欠なこと
厳しい経営環境の中で中小企業を支援するために、新たな金融政策が発表されています。
しかし、こうした政策も金融機関の現場にはなかなか浸透せず、リファイナンスを実現するのは容易でないのが実態です。
コロナのゼロゼロ融資は、金融機関の現場へ直ちに浸透しましたが、新たな政策や制度を知らない金融機関の職員が多いのも実態です。
また、コロナ禍の時期と異なり、「コロナ借換保証制度」でも決算書などの財務状況が芳しくないと、容易には認めてくれません。
そのため、個別の中小企業の実態に適したリファイナンスを実現するためには、以下の3点が不可欠です。
金融機関の職員が制度を理解していない可能性を念頭に置く
金融機関の職員は、最新の施策や制度を必ずしも知らないと考えておきましょう。
場合により、専門家に施策・制度の資料を用意してもらい、その資料を示して説明する必要もあります。
自社の経営実態を開示する
金融機関に対して、自社の経営実態を示す資料(試算表など)や、事業計画書の作成・提出が不可欠です。
また、金融機関の職員としっかり対話することも重要です。
論理的に自己主張する
リファイナンスなどを相談する際には、金融機関の職員に対して事業の継続と返済ができることを訴求しましょう。
その際には、もちろん感情的になるのはNGです。
冷静かつ論理的に話をして、相手を納得させることが重要です。
まとめ
以上の通り、昨今リファイナンスを後押しする政策や融資制度が多く出てきています。
しかし、実際に利用するには金融機関を納得させることが必要で、そのハードルは高いのが実態です。
リファイナンス(借換え)に関する政策や融資制度を利用して、資金繰りやキャッシュフローを安定させたいという中小企業様は、お気軽にお問い合わせください。