ルネサンス美とモダニズム住宅──全然違うけど、どっちも心を打つ展示だった

Botticelli 学び
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春の東京で気になる展覧会を2つハシゴしてきました。
ひとつは竹橋の丸紅ギャラリーで開催中の《ボッティチェリ 美しきシモネッタ》展。
もうひとつは六本木の国立新美術館で開催中の《リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s–1970s》展です。

まったく毛色の違う内容ですが、どちらも「人間の生き方」や「美しさって何だろう?」を考えさせられる、深くて見応えのある展示でした。
それぞれの感想と、途中で思ったことも含めて書いてみたいと思います。

ボッティチェリ《美しきシモネッタ》展──理想美と謎と、若き死の哀しみ

丸紅ギャラリーで開催中の《美しきシモネッタ》展では、ルネサンスの巨匠サンドロ・ボッティチェリによる《理想的女性の肖像》が主役。
描かれているのは、15世紀のフィレンツェで「この世のものとは思えない美しさ」と称されたシモネッタ・ヴェスプッチです。

上品な横顔と、波打つ金髪、優雅に飾られたネックレスとドレスの繊細なディテール。まさに「理想美」という言葉がぴったりの女性像でした。

シモネッタは《春》にも?《ヴィーナスの誕生》にも?ルネサンス界のミューズ

展示では、ボッティチェリの代表作《プリマヴェーラ(春)》や《ヴィーナスの誕生》に登場する女性たちも、シモネッタをモデルにしたのでは?という説が紹介されていました。

《プリマヴェーラ》に描かれた三美神のうちのひとり、あるいは右端に描かれたクロリス(花の精)やフローラ(花の女神)にシモネッタの面影を見た人もいたそうです。

また、《ヴィーナスの誕生》のヴィーナスそのものがシモネッタを理想化した姿ではないか、という説もあり、彼女はまさに“ルネサンスのミューズ”だったことがうかがえます。

彼女が亡くなったのは23歳、肺結核が原因だったといわれています。
この話を読んでいてふと、少し前に見たオーブリー・ビアズリー展を思い出しました。彼もまた、肺結核で26歳の若さで亡くなっています。昔の肺結核は、今の感覚でいうと“ほぼ不治の病”だったんでしょうか。
どちらも、才能や美に恵まれながら、あまりにも早くこの世を去ってしまった人たち。そう考えると、彼らの作品や存在の儚さがより胸に迫ります。

ネックレスの“すき間”から始まった真偽論争

今回展示されている《理想的女性の肖像》は、実はかつて「これは本当にボッティチェリの作品なのか?」という疑問が投げかけられたこともあります。

きっかけは、1937年にリオネッロ・ヴェントーリが編集したボッティチェリの画集に収録されていたこの作品の写真と実物の絵の“違い”。
特に議論を呼んだのが、胸元にあるネックレスの描写。
ヴェントーリの画集では真珠の間に隙間があるにも関わらず、実物の絵には隙間がありません。

この“すき間”が論争を呼び、当時の讀賣新聞では「名画にナゾ」という見出しで8段抜きの記事が掲載されたそうです。

当時、丸紅はロンドンのホースバラ画廊から約1.5億円(消費者物価指数で考えれば、今で言うところの7億円ほど)でこの絵を購入したそうですから、偽物だとすると大損失。そんなことから、大きな話題になったんでしょうね。

ちなみに2年ほどかけて赤外線/紫外線/X線など様々な手法で調査をした結果、19世紀に修復された際に上書きされたバージョン(ヴェントーリの画集)と、戦後に絵を洗浄して上書き部分が除去されオリジナルの姿に戻ったバージョン(実物)の違いであることがわかったそうです。丸紅さん、良かったね(笑)

展示の構成も丁寧でわかりやすい

  • ボッティチェリとシモネッタの関係を追うパネル展示
  • 15世紀のフィレンツェにおける「美」とは何だったのか?という視点
  • 19世紀以降に彼女が“美の象徴”として再評価されていく過程も紹介

ダヴィンチが描いたシモネッタと思われる絵などもパネルで紹介されており、展示空間は決して広くはないですし、実際の絵はシモネッタ1点だけですが、静かで落ち着いて見られ、情報の密度も高く、非常に満足度の高い内容でした。

これで500円!安い!笑

国立新美術館《リビング・モダニティ》展──「住まい」が問いかけてくるもの

続いて訪れたのは、六本木・国立新美術館の建築展《リビング・モダニティ》。
こちらは1920年代から1970年代にかけての「住まいのデザインの進化」をたどる内容で、建築好きにはたまらない展示です。

ル・コルビュジエ、アルヴァ・アアルト、リナ・ボ・バルディなど、20世紀建築の名だたる巨匠たちの挑戦が並びます。

ただの家じゃない、「生き方」のデザイン

  • ル・コルビュジエの「住宅は住むための機械」という徹底的な機能主義
  • アアルトやバルディが見せる、自然や文化と調和する人間的な空間設計
  • 日本建築に見られる「間(ま)」や木材の温もりとのバランス

戦後の住宅不足を背景に、大量生産・標準化のニーズと、心豊かに暮らすための空間のせめぎ合いが垣間見えます。
「家って、単に住むだけの場所じゃないんだな」と改めて考えさせられました。

そして、やはり窓からの景観が素晴らしいと全体的に素晴らしく見えるマジック!

窓からの景観を1つの絵として楽しめるような建築ってやっぱりいいですね。

展示の見どころポイント

  • 超精密な住宅模型がずらり。空間の工夫が目で見てわかる
  • 設計図面や写真で時代背景や思想もわかりやすく解説
  • 「実験」という言葉通りの、野心的な住宅の数々に驚き

建築に詳しくなくても、「あ、こういう家、今でも住みたいかも」と思わせるものばかり。
時間をかけてじっくり見て回ると、ただの建物ではなく、“思想が詰まった器”としての住宅に感動すら覚えます。

海外からのお客様も多かったのが驚き。六本木という立地もあるからでしょうか。

美とは、住まいとは、そして人間とは

シモネッタが体現した「理想の美」、そしてモダニズム建築が問い続けた「理想の住まい」。
ジャンルも時代も全然違うけれど、どちらも「人間らしくあること」「よりよく生きるとは何か」を見つめた結果生まれた表現だと感じました。

どちらの展示もまだ会期があるので、興味ある方はぜひ足を運んでみてください。
きっと、頭のどこかにずっと残る体験になると思います。

展覧会情報まとめ

《ボッティチェリ 美しきシモネッタ》展
会場:丸紅ギャラリー(東京・竹橋)
会期:2025年3月18日(火)〜5月24日(土)

企画展|Marubeni Gallery 丸紅ギャラリー
丸紅ギャラリー 2021年11月 開廊

《リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s–1970s》展
会場:国立新美術館(東京・六本木)
会期:2025年3月19日(水)〜6月30日(月)

リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s-1970s | 企画展 | 国立新美術館 THE NATIONAL ART CENTER, TOKYO

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