人手不足、賃上げ、働き方改革。2026年の中小企業は、厳しさとチャンスが同時に来る時期に入っています。
この時期に見ておきたいのが、厚生労働省系の助成金です。助成金は、人材と賃上げへの投資を後押しする資金として使えます。
本記事では、令和8年度の主な助成金(キャリアアップ助成金、業務改善助成金、外国人労働者就労環境整備助成コース、65歳超雇用推進助成金)の変更点と使い方を、2026年10月時点の公式情報で整理します。細かい条件は各制度の公式ページと個別記事にまとめているので、ここでは全体像と判断のポイントに絞ります。
助成金と補助金の違い|経営判断を左右する基本理解
「助成金は簡単、補助金は難しい」という理解では足りません。見るべきは、資金調達の性質の違いです。
助成金と補助金の一般的な違い
| 項目 | 助成金 | 補助金 |
|---|---|---|
| 主な所管 | 厚生労働省が中心 | 経済産業省などが中心 |
| 支給の考え方 | 要件を満たして申請し、審査を経て支給 | 審査・採択制 |
| 採択の競争 | 多くの制度でない | ある |
| 主目的 | 雇用・待遇改善 | 成長投資・イノベーション |
経営視点での本質
- 助成金:「計画と書類を整えて受け取る資金」
- 補助金:「採択を競って受け取ることが多い資金」
助成金は、要件を満たして申請し、労働局などの審査を受けて支給が決まります。計画の事前提出が必要な制度が多く、年度の途中で要件が変わったり、予算の状況で受付が止まったりする制度もあります。名称は助成金でも、業務改善助成金のように国の予算の範囲内で交付決定を行う制度があり、先の区分は目安です。取り組みの前に、最新の公式情報を確認してください。
キャリアアップ助成金|非正規雇用の正社員化と処遇改善を支える制度
採用にコストをかける企業は多い一方、既存の非正規社員を戦力にする投資は後回しになりがちです。そこを支えるのが、キャリアアップ助成金です。
制度の概要
アルバイトや契約社員などの非正規雇用の人を正社員に転換し、転換後6か月の賃金を転換前6か月より3%以上増額すると助成されます。令和8年度は6つのコースがあり、中心になるのは正社員化コースです。コースの一覧と最新の要件は、厚生労働省のキャリアアップ助成金のページで確認できます。
助成額(正社員化コース)
| 転換内容 | 中小企業 | 大企業 |
|---|---|---|
| 有期 → 正社員(重点支援対象者) | 80万円(40万円×2期) | 60万円 |
| 無期 → 正社員(重点支援対象者) | 40万円(20万円×2期) | 30万円 |
| 有期 → 正社員(重点支援対象者以外) | 40万円 | 30万円 |
| 無期 → 正社員(重点支援対象者以外) | 20万円 | 15万円 |
重点支援対象者は、雇入れから3年以上の有期雇用労働者などです。雇用された期間が通算5年を超える有期雇用労働者は無期雇用労働者とみなされ、この区分には当たりません。該当すると2回(2期)に分けて支給されます。金額は令和8年度版パンフレットにもとづいています。
令和8年度の重要変更
情報公表加算(中小企業20万円、大企業15万円)
正社員転換に関する所定の情報を、自ら管理するウェブサイトまたは職場情報総合サイト(しょくばらぼ)に公表すると、1事業所あたり1回に限り加算があります。令和8年4月8日以降に対象労働者を転換する場合が対象です。社内ポータルや会員登録が要るサイト、求人サイトの企業ページへの掲載は認められません。
このほか、令和8年10月以降の正社員転換では、企業型確定拠出年金の事業主掛金が賃金比較に含まれなくなります。
ここが本質
この制度は、資金面の支援にとどまりません。情報公表加算を使えば、次の3つを同時に進められます。
- 社員登用の実績公開
- キャリアパスの見える化
- 採用時の安心材料づくり
実務上の落とし穴
- コース実施日の前日までにキャリアアップ計画書を出していない(前日が行政機関の休日の場合は、その休日の翌日まで)
- 転換後の正社員に、賞与または退職金の制度と昇給が適用されていない
- 転換後6か月の賃金が、転換前より3%以上増えていない
計画書の提出は取り組みの前、支給申請は取り組みのあとです。順番を間違えると受給できません。要件と手順の全体は、キャリアアップ助成金の解説記事にまとめています。
業務改善助成金|賃上げと設備投資をセットで支援する制度
最低賃金は上がり続けています。賃上げの負担をどう乗り越えるか。その答えの一つが、この制度です。
制度の本質
事業場内で最も低い時給(事業場内最低賃金)を引き上げ、生産性向上のための設備投資などを行うと、その費用の一部が助成されます。賃上げと設備投資を同時に支援する点が特徴です。
助成内容
| コース | 事業場内最低賃金の引上げ額 | 上限額(一般の事業者) | 特例事業者で10人以上を引き上げる場合 |
|---|---|---|---|
| 50円コース | 50円以上 | 30万円から110万円 | 130万円 |
| 70円コース | 70円以上 | 40万円から230万円 | 300万円 |
| 90円コース | 90円以上 | 90万円から450万円 | 600万円 |
上限額は、コース、引き上げる労働者の人数、事業場の規模、特例事業者かどうかで決まります。事業場規模が30人未満の事業者には、さらに高い上限額の区分があります。引き上げる対象は、雇用保険の被保険者で、雇入れ後6か月を経過した労働者です。助成率は、引上げ前の事業場内最低賃金が1,050円未満なら5分の4、1,050円以上なら4分の3です。人数ごとの上限額は厚生労働省の業務改善助成金のページのリーフレットで確認してください。
令和8年度の変更点
① コースの再編
令和7年度までは30円、45円、60円、90円の4コースでしたが、令和8年度は50円、70円、90円の3コースになりました。
② 助成率の区分
助成率が5分の4になる境目が、1,000円未満から1,050円未満に変わりました。
③ 賃上げ後の申請はできない
令和7年度は、賃上げを先に済ませていても計画の提出を不要とする扱いがありました。令和8年度は、賃上げ後の申請はできません。申請書を出したあと、地域別最低賃金の発効日の前日までに賃上げをします。
④ 申請期間
申請期間は9月1日から、都道府県の地域別最低賃金の発効日の前日または11月30日のいずれか早い日までです。都道府県によっては9月末が期限で、すでに受付を終えています。予算の範囲内で交付されるため、期間内でも募集が終わることがあります。
戦略的な見方
この助成金は、準備の早さがそのまま結果を分ける制度です。
- 準備が遅い企業:申請期限に間に合わない
- 準備済みの企業:計画から申請までを期間内に終えられる
事前準備チェックリスト
- 賃金台帳
- 労働条件通知書
- 見積書(原則として二者以上)
この3点は、制度が募集に入る前から用意しておくのが安全です。対象経費や注意点は、業務改善助成金の解説記事にまとめています。
外国人雇用の助成金|人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)
人手不足の解決策として、外国人材の活用は広がっています。次の課題は定着です。
制度概要
外国人労働者の職場定着に向け、就労環境を整える事業主に助成します。雇用保険被保険者となる外国人労働者(特別永住者と、在留資格「外交」「公用」の人を除く)を雇用している事業主が対象です。詳しくは厚生労働省のコースのページにあります。
助成額
| 取り組み | 金額 |
|---|---|
| 雇用労務責任者の選任と多言語化(必須の2措置) | 20万円 |
| 上記に加えて、一時帰国のための休暇制度を整備 | 25万円 |
令和8年10月1日の支給要領改正
令和8年10月1日に支給要領が改正され、支給額は最大25万円になりました。令和8年4月1日版のガイドブックでは、1制度の導入につき20万円(上限80万円)でした。10月1日以降に就労環境整備計画を出す場合は、改正後のルールが適用されます。
取り組み内容
必須の措置
- 雇用労務責任者を事業所ごとに選任し、責任者の氏名と、責任者が苦情・相談に応じることを外国人労働者に周知する
- 雇用労務責任者が、外国人労働者と3か月ごとに1回以上面談する(離職率の算定期間を含めて実施します)。また、外国人労働者雇用労務責任者講習を受講する
- 就業規則または労働協約、労働条件通知書または雇用契約書、社内マニュアルを、それぞれ1種類以上多言語化し、外国人労働者に周知する
多言語化には、母国語に加えて「平易な(易しい)日本語」で記載する方法も含まれます。
上乗せの措置
- 一時帰国のための休暇制度の整備(1年間に1回以上、連続5日以上の有給休暇を取得させる)
受給の条件
就労環境整備計画期間の末日の翌日から6か月経過するまでの外国人労働者の離職率が15%以下であることが必要です(外国人労働者が2人以上6人以下の場合は、離職者が1人以下)。なお、10月の改正に対応した電子申請は準備中で、改正後の支給要領に基づく申請は、労働局への持参または郵送になります。
経営的なインパクト
- 教育コストの見直し
- 離職率の低下
- 組織の多様性の向上
人的資本経営の取り組みとしても説明しやすい制度です。
65歳超雇用推進助成金|シニア人材の再評価
少子高齢化の中で、企業が見直せる資源があります。それがシニア人材です。この助成金には3つのコースがあり、ここでは65歳超継続雇用促進コースを取り上げます。
助成額(定年の定めの廃止)
| 対象被保険者数(※) | 金額 |
|---|---|
| 1〜3人 | 60万円 |
| 4〜6人 | 120万円 |
| 7〜9人 | 180万円 |
| 10人以上 | 240万円 |
※対象被保険者は、支給申請日の前日に1年以上継続して雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者で、期間の定めのない労働契約の人または定年後の継続雇用者に限ります。事業所の被保険者の総数ではありません。
65歳以上への定年引上げや、66歳以上の継続雇用制度の導入では、金額が別の表で決まります。JEEDの65歳超継続雇用促進コースのページで確認してください。
必要施策
- 就業規則等で、65歳以上への定年引上げ、定年の定めの廃止などの制度を実施し、就業規則を労働基準監督署へ届け出る
- 高年齢者雇用推進者を選任する
- 55歳以上の高年齢者に対する高年齢者雇用管理に関する措置(教育訓練、健康管理、賃金体系の見直しなど)を1つ以上実施する
申請は、制度の実施日が属する月の翌月から4か月以内の、各月の月初から15日までです。15日が行政機関の休日に当たる場合は翌開庁日までです。郵送は消印ではなく、期間内の到着が必要です。予算上限に近づくと受付が止まることがあります。
戦略的意義
経験のあるシニア人材に長く働いてもらう体制を、助成金を使って整える。そう考えると、導入しやすくなります。条件の詳細と他の2コースは、65歳超雇用推進助成金の解説記事を見てください。
その他の主な助成金
このほかにも、厚生労働省には多くの雇用関係助成金があります。名称と窓口は雇用関係助成金一覧で確認できます。
- 人材開発支援助成金:従業員の訓練・リスキリング
- 両立支援等助成金:育児・介護と仕事の両立
- 特定求職者雇用開発助成金:就職が難しい人の雇入れ
- 雇用調整助成金:事業縮小時の雇用維持
金額や要件は年度ごとに変わるため、各ページの最新版で確認してください。
まとめ|助成金は「戦略」であり「仕込み」である
令和8年度の助成金を一言で表すと、人材投資と賃上げを後押しする制度です。
重要な3つの視点
① 助成金は後から考えるものではない
→ 経営計画に組み込む
② 申請は準備の早さで決まる
→ 期限と予算の上限に間に合わせる
③ 単体ではなく組み合わせる
→ 同じ取り組みへの併給はできないことがあるため、取り組みごとに使い分ける
組み合わせ戦略例
| 戦略 | 活用助成金 |
|---|---|
| 採用強化・定着 | キャリアアップ助成金 |
| 賃上げ対応 | 業務改善助成金 |
| 外国人活用 | 人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース) |
| シニア活用 | 65歳超雇用推進助成金 |
最後に|今すぐ動くべき企業
次に当てはまる企業は、検討する価値があります。
- 人手不足に悩んでいる
- 賃上げを予定している
- 非正規社員の正社員化を考えている
- 外国人・シニア活用を考えている
助成金は、知っているだけでは受け取れません。多くの制度で事前に計画を出す必要があり、要件に沿って取り組んだ企業が、審査を経て受け取ります。
申請の相談
どの助成金が自社に合うか、いつ何を出すかを整理したいときは、補助金・助成金の相談ページからご連絡ください。補助金・助成金の情報は補助金データベースでも探せます。
支援サービス

チームを組んでサポートします。お気軽に以下のフォームから是非ご相談ください!
ご相談の前に、支援の内容と進め方と、担当する中小企業診断士のプロフィールをご覧いただけます。


