経営者保証とは、法人が融資を受けるときに、代表者個人が保証人になることです。法人が返済できなくなると、金融機関は経営者個人に請求できます。そのため経営者にとっては、事業の判断のたびに重い負担になります。
ここ数年で、経営者保証をめぐる状況は大きく変わりました。本稿では、中小企業が金融機関に保証を外してもらうために、何を準備し、どう交渉するかを、2026年10月時点の公的な情報に沿って整理します。各制度の細かな条件は出典のページに譲り、交渉で使いどころになる点に絞ります。
経営者保証は「当たり前」ではなくなってきた
これまで金融機関には、中小企業への融資では経営者保証をつけるのが普通、という空気がありました。経営への責任感を保つ手段であり、返済が滞ったときの回収手段にもなる、という考え方です。
一方、経済産業省・金融庁・財務省が2022年12月に公表した経営者保証改革プログラムは、経営者保証には次のような課題もあると整理しています。
- スタートアップの創業や、経営者による思い切った事業展開をためらわせる
- 円滑な事業承継を阻害する
- 早期の事業再生を阻害する
実績にも変化が出ています。金融庁の活用実績によると、2025年度の民間金融機関の新規融資件数のうち、経営者保証に依存しない融資の割合は55.7%でした。「保証を外してほしい」という相談は、もう特別な要望ではありません。
経営者保証改革プログラムで変わったこと
改革プログラムは、スタートアップ・創業、民間融資、信用保証付融資、中小企業のガバナンスの4分野に取り組むものです。経営者が交渉で使える変更点は、次の3つです。
金融機関に「保証が必要な理由」の説明と記録が求められるようになった
2023年4月から、金融機関が経営者等と保証契約を結ぶときは、次の2点を個別具体的に説明し、結果を記録することが求められています。
- どの部分が十分ではないために、保証契約が必要となるのか
- どのような改善を図れば、保証契約の変更・解除の可能性が高まるのか
交渉の出発点はここです。「なぜ保証が必要なのですか」「何を直せば外せますか」と聞けば、金融機関は説明を求められている立場です。詳しくは金融庁の事業者向けパンフレットにまとまっています。
2026年4月から、2023年3月以前の保証契約への説明・記録も明確化された
2026年4月1日に施行された監督指針の改正で、2023年3月以前(改革プログラムより前)に結ばれた個別の保証契約についても、新規の契約と同じように説明・記録を求めることが、金融機関への監督上の着眼点として明確化されました(金融庁の概要紙)。ただし、金融機関は顧客からの問い合わせや定期的な業況確認の機会を活用しながら、対応可能な範囲で取り組むことが期待されている、という書き方です。待っていても動かないことがあるので、こちらから聞きに行くのが現実的です。
相談窓口と、金融機関の「取組方針」
金融庁には「経営者保証ホットライン」(0570-067755、平日10時から17時)があり、「金融機関から経営者保証について適切な説明がない」といった情報を受け付けています。金融機関との個別のトラブルについて、あっせん・仲介・調停はできませんが、論点の整理や他機関の紹介などのアドバイスは受けられます。
金融機関には、経営者保証ガイドラインを浸透させるための「取組方針」を公表するよう、金融担当大臣から要請が出ています。取引先の銀行や信用金庫のホームページで方針を見ておくと、担当者に話すときの足場になります。
なお、パンフレットには、この改正は経営者保証を制限する趣旨ではなく、個人保証が必要かどうかは引き続き各金融機関が判断する、と書かれています。外せるかどうかは、最後は交渉と中身で決まります。
経営者保証を外すための3要件
「経営者保証に関するガイドライン」は、日本商工会議所と全国銀行協会を事務局とする研究会が2013年12月に公表し、2014年2月1日から適用されています。法的拘束力はありませんが、中小企業・経営者・金融機関が自主的に尊重することが期待されている準則です。金融庁も、金融機関に活用を促しています(金融庁の特設ページ)。
ガイドラインが、保証なしで資金調達するために求めている経営状況は、次の3つです。出典はガイドライン本文です。
- 法人と経営者個人の関係が明確に区分・分離されている
- 財務基盤が強化されている(財務状況や経営成績の改善を通じて、返済能力を高めている)
- 財務状況を正確に把握し、適時適切に情報開示して、経営の透明性が確保されている
金融庁のパンフレットには、それぞれの具体例が出ています。
- 区分・分離:社長個人の私的な飲食費を会社の経費にしない、事業上必要のない法人から経営者への貸付をしない
- 財務基盤の強化:借入を、法人のみの資産と収益力で返済できる
- 情報開示:取引金融機関に、試算表などを定期的に提出して業況を報告している
3つすべてを一度に満たすのは、簡単ではありません。それでも、金融機関が「どこが十分ではないか」を説明するよう求められている以上、足りない部分を聞き出して、それを直す計画を示すことが交渉になります。特に区分・分離と財務基盤は決算書に表れます。決算書の見え方を整えたい方は、銀行の評価を高める「財務診断レポート」も参考にしてください。
場面別の交渉のポイント
創業融資を利用する
日本政策金融公庫は、新たに事業を始める方、または事業開始後に税務申告を2期終えていない方について、原則として無担保・無保証人で各種融資制度を使えるとしています(創業融資のご案内)。税務申告を2期以上実施した後でも、法人と代表者の一体性の解消が確認でき、直近の決算が債務超過でないなど一定の要件を満たせば、「経営者保証免除特例制度」を使えます。
信用保証協会の保証でも、創業間もない事業者が経営者保証を提供せずに資金調達できる「スタートアップ創出促進保証制度」があります(改革プログラム)。東京信用保証協会の案内ページにも、経営者保証を不要とする主な制度として載っています。制度融資を使うときは、自治体の窓口や取引金融機関で、最新の条件を確認してください。
既存の借入の保証を外したい
すでに借りている融資の保証を外すには、金融機関への働きかけが欠かせません。先に述べた2026年4月の監督指針の改正で、金融機関は既存の契約についても「どうすれば解除の可能性が高まるか」を説明する方向にあります。「5年後に事業承継を考えている」「法人から社長への貸付金をこの期までに精算する」など、時期と中身を添えて相談すると話が進みやすくなります。
保証付き融資なら、協会の定める要件に当てはまる場合に、新しい保証付き融資へ借り換えて保証を外す方法もあります(東京信用保証協会)。借換えの考え方は、アフターコロナ時代のリファイナンスの知識にまとめています。
新規に借入をする
新規の借入は、保証の要否を最初に話し合う場面です。金融機関が保証を求めてきたら、断らずに、先ほどの2点を質問しましょう。説明を受けた内容はメモして、次回の面談で「ここを直しました」と報告できるようにします。
事業承継を控えている
事業承継は、保証の見直しを求める理由がはっきりする場面です。ガイドラインは、金融機関が前経営者の保証債務を後継者に当然に引き継がせるのではなく、必要な情報開示を受けたうえで、保証の必要性を改めて検討することを求めています。前経営者から解除を求められたときも、前経営者が実質的な経営権を持ち続けているか、返済能力はどうかなどを勘案して適切に判断する、とされています。事業承継に焦点を当てた特則も2019年12月に公表されています。
2026年5月1日には、金融庁が「M&A・事業承継時における経営者保証情報ネットワーク」を開設しました。経営者・後継者が相談シートをメールで送る仕組みで、利用には、状況の共有について必要な関係者の承諾を得ている必要があります。金融機関と話が進まないときの選択肢になります。
信用保証協会の保証付き融資には、事業承継特別保証という、経営者保証を不要とする制度もあります(東京信用保証協会)。使えるかどうかは、承継の時期や財務内容で決まるので、協会か取引金融機関に確認してください。
経営破綻・廃業に直面している
意外に思われるかもしれませんが、会社が行き詰まった場面でも、保証人が自己破産せずに済む道があります。ガイドラインに基づく保証債務の整理です。ガイドラインは、保証債務の整理を申し出られる保証人の要件と、免除要請への対応の条件を定めています。主なものは次のとおりです。
- 主たる債務者が、法的整理や、中立公正な第三者が関わる私的整理の手続を申し立てていること
- 保証人が、自分の資力に関する情報を誠実に開示し、資料を提出すること
- 弁済計画が、債権者にとっても経済合理性があること
特に重要なのは「経済合理性」です。弁済計画が債権者にとっても経済合理性があると認められることが、免除要請に応じてもらう条件のひとつになっています。ほかにも、資力に関する情報の誠実な開示と正確性の表明保証、資料の提出、開示した資力が事実と異なっていた場合に追加で弁済する旨の合意と書面契約など、すべての要件を満たすことが前提です。手元に残せる資産の範囲を含め、具体的な扱いはガイドライン本文と支援専門家に確認してください。
廃業のときの考え方は、「廃業時における経営者保証に関するガイドラインの基本的考え方」の改定に出ています。廃業手続に早く着手するほうが、保証人の手元に残る資産が増える可能性がある、という点が明確にされています。迷ったら、早めに相談することをお勧めします。
保証協会付き融資は「保証料の上乗せ」で外せる
信用保証協会の保証付き融資では、ガイドラインの要件をすべて満たしていなくても、保証料率を上乗せすることで経営者保証を提供しないことを選べる制度があります。「事業者選択型経営者保証非提供制度」といいます(東京信用保証協会の案内)。
利用の要件は、決算書等を金融機関の求めに応じて提出していること、直近の決算で代表者への貸付金等がないこと、財務面の条件などです。上乗せ率は、財務の条件を両方満たす場合が0.25%、いずれか一方を満たす場合などが0.45%です(東京信用保証協会の例)。協会ごとに案内が異なることがあるため、利用する協会のページと取引金融機関で最新の条件を確かめてください。
保証料を払って外すのか、要件を整えて上乗せなしで外すのかは、資金の使いみちと時間の余裕で判断します。上乗せは要件を整える時間がないときの選択肢になりますが、保証料のコストが増えます。財務を整える時間があるなら、先に整える手もあります。
企業価値担保権という新しい選択肢
2026年5月から、企業価値担保権の制度が始まりました。不動産などの個別の担保や経営者保証に頼らず、事業の将来性に基づく融資を後押しするための新しい制度です(金融庁のページ)。ただし、使えば自動的に保証が外れるとは限りません。仕組みや注意点は、企業価値担保権とは?事業性融資推進法で変わる中小企業の資金調達で解説しています。
交渉の前に整えておくこと
- 法人と個人のお金を分ける。法人から経営者への貸付金や仮払金があれば、精算の計画を立てる
- 月次の試算表を、決算を待たずに金融機関へ出す。業況の説明と事業計画も添える
- 取引金融機関が公表している「取組方針」を読む
- 自社の決算書がどう見えるかを、事前に確認する(財務診断レポート)
- 借換えを考えているなら、借換えで何が変わるかを整理する(リファイナンスの知識)
よくある質問
保証を外したいと言うと、融資を断られませんか。
金融庁は、貸し渋りや貸し剥がしをしないよう金融機関に要請しています。そのような対応を受けた、またはそう誤解させる発言があった場合は、経営者保証ホットラインに相談できます。
3つの要件を満たしていないと、交渉できませんか。
できます。要件が不十分な場合でも、金融機関は、どの部分が十分ではないか、どう改善すれば解除の可能性が高まるかを説明するよう求められています。説明を受けて、改善の計画を示すところから始めます。
金融機関が説明してくれないときはどうすればよいですか。
まず取引金融機関の担当者に、書面かメールで質問を残します。それでも適切な説明がない場合は、ホットラインに情報を寄せることができます。
専門家に相談するという選択
金融機関との交渉は、経営者が一人で進めても、動かないことがあります。決算書の見せ方、改善の計画づくり、金融機関への説明を整理したい方は、ご相談ください。内容を伺ったうえで、進め方をご提案します。通常2営業日以内にご返信します。詳しくは経営支援サービスのご案内をご覧ください。
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