競合のニュースを調べ、会議の議事録をまとめ、月末には領収書を入力する。日々の事務作業に追われ、お客様への提案や事業の見直しに時間を使えない。そんな中小企業でAI活用を始めるなら、繰り返し発生する業務の「下準備」が候補になります。
情報収集、議事録作成、領収書の取り込みを例に、AIに任せる範囲と人が確認することを整理します。社内で使う際のルールと、1つの業務を1か月試す手順も紹介します。
AIエージェントには、複数の作業をつなげて任せられる
生成AIに「この文章を短くして」と頼む使い方では、人が資料を用意し、回答を受け取って次の作業へ進みます。
AIエージェントは、与えた目的に沿って必要な作業を組み立て、外部の道具も使いながら実行する仕組みです。たとえば「競合の新着情報を調べ、要約し、社内向けメモを作る」という一連の仕事を任せます。
| 比較する点 | 対話で使う生成AI | AIエージェントを使う業務 |
|---|---|---|
| 頼み方 | 文章の修正などを、その都度頼む | 目的・対象・成果物・制約を渡す |
| 作業の進め方 | 人が回答を受け取り、次の作業を進める | 許可した範囲で、AIが複数の作業を進める |
| 人が担うこと | 回答の確認と、その後の作業 | 実行範囲の設定、成果物の確認、意思決定 |
決まった時刻に動かす機能や、メール・社内フォルダとの接続は、使うサービスや設定によって異なります。また、手順が固定された仕事なら、従来の自動化と生成AIを組み合わせる方法もあります。
導入時には「何を作るか」と併せて、どこまで自動で進め、どこで人の確認を待つかを決めておきます。以下の3例では、まず下書きの作成や仮登録までを任せる進め方を想定しています。
中小企業がAIを活用しやすい3つの業務
競合・市場情報を集め、共有メモを作る
競合のホームページや業界ニュースを毎日巡回する作業には、読む前の「探す時間」がかかります。ここでは、集める対象と関心のあるテーマを決めてからAIに任せます。
たとえば、競合5社のニュースリリースと業界団体の発表を対象に、新商品・価格改定・設備投資に関する更新を集めます。AIには重複をまとめさせ、タイトル、発表日、要点、元のURLを一覧にしてもらいます。
指示は、次のように具体化できます。
指定したサイトの直近7日間の新着情報から、新商品と価格改定に関する発表をまとめてください。各項目に発表日・要点・元のURLを付けてください。確認できなかったサイトは、その名前と理由を別欄に記載してください。事実と当社への影響の仮説は、欄を分けてください。
担当者は元の発表を確認し、営業提案や価格設定を見直す必要があるかを判断します。自社への影響についてAIが書いた内容は、検討のための仮説として扱います。
「新着情報がなかった」と「サイトを取得できなかった」を区別しておけば、調査漏れにも気づけます。サイトの利用条件を確認し、取得できない情報まで集められたものとして扱わない運用が必要です。
会議のメモから、決定事項と宿題を整理する
会議後に議事録を作ろうとして、「誰が担当だったか」「期限は決まったか」と確認し直すことがあります。AIには、会議メモや録音の文字起こしから、決まった形式の議事録を作ってもらいます。
議事録の欄は、議題、決定事項、未決事項、ToDo、担当者、期限などに固定します。参加者が読んで確認し、確定版を社内wikiなどの共有場所へ登録します。
以下の会議メモから議事録の下書きを作ってください。決定事項と検討中の案を分け、ToDoは「内容・担当者・期限」の表にしてください。メモにない担当者や期限は補わず、「未定」と記載してください。
録音を使う場合は、参加者に目的を説明し、社内規程や必要な同意を確認します。音声や文字起こしの保存先、閲覧できる人、保存期間も決めておきましょう。
議事録を蓄積すれば、過去の決定を探す用途にも使えます。ただし、保存するだけでAIが検索できるとは限りません。社内情報を検索する仕組みを接続し、回答の根拠となる議事録を表示できるようにします。閲覧権限のない会議内容が、別の社員への回答に混ざらない設計も欠かせません。
領収書を読み取り、台帳への入力を補助する
メールに添付されたPDF、紙の領収書を撮った写真など、受け取り方がばらばらだと整理に手間がかかります。AIには領収書の記載内容を読み取らせ、日付・金額・取引先を台帳に仮登録してもらいます。
台帳は1枚の領収書につき1行とし、元ファイルへのリンクと確認状況を残します。画像が不鮮明なものや金額を判別できないものは「要確認」に回し、人が原本と照らし合わせます。
領収書に記載された日付・取引先・合計金額・通貨を抽出してください。読み取れない欄は推測せず「要確認」としてください。元ファイル名を残し、重複の疑いがあるものは別欄に記載してください。
同じ領収書の二重登録にも注意が必要です。メール添付と写真で同じものを受け取るケースを想定し、ファイルや取引内容を照合します。取引先への確認メールは下書きにとどめ、担当者が確認して送信します。
台帳への入力と、税法上必要な証憑の保存は分けて考えます。 電子取引で受け取った領収書などには電子データの保存ルールがあり、AIで読み取った一覧表だけで保存義務を満たすとは限りません。国税庁の電子取引データ保存の案内を確認し、紙の処分や保存方法の変更は顧問税理士に相談して進めてください。
AIを社内で使う前に決めたい3つのルール
ルール1.根拠を残し、数字と決定事項を人が確認する
AIは、事実と異なる内容をもっともらしく書くことがあります。これをハルシネーションと呼びます。対策として、要約や抽出結果から元の資料へ戻れるようにします。
- ニュースの要約にはURLと発表日、社内資料にはファイル名や該当箇所を添える
- 資料にない内容は「不明」「未定」と書き、推測で埋めない
- 金額・日付・契約条件・会議の決定事項は、人が元資料と照合する
URL自体が誤っていることもあるため、リンクがあるだけで正しいとは判断できません。確認を担当する人と、確認する項目まで決めておきます。
ルール2.入力データの扱いと、AIに渡す権限を確認する
サービスを選ぶ際は、入力内容を学習に使うか、どこに保存するか、いつ削除できるかを確認します。無料・有料という区分だけでは、業務で使えるかを判断できません。
法人向けプランを検討する場合も、契約条件、保存期間、管理者による制御、接続先サービスのデータの扱いを確認します。「学習に使わない」という条件も、データの保存や外部送信がないことを意味するわけではありません。
メールやフォルダへの接続は必要な範囲に絞ります。最初は「指定フォルダの読み取り」と「下書き用の場所への書き込み」から始め、メール送信やファイル削除などは人の承認を必要とする設定にします。
外部のメールやWebページには、AIへ別の操作を指示する文章が紛れ込む場合もあります。取得した資料を読むだけで権限が広がらないようにし、操作の記録も残しておきましょう。
ルール3.入力してよい情報を、業務ごとに決める
試行段階では、公開情報や架空のデータを使います。顧客名簿、従業員のマイナンバー、未公開の契約書などは、社員が個人の判断で外部AIに入力しないルールにします。
| 情報の例 | 試行段階での扱いの例 |
|---|---|
| 公開済みのニュースリリース | 利用条件を確認して使う |
| 議事録の書式、架空の取引データ | 個人・機密情報が含まれないことを確認して使う |
| 実際の領収書、顧客との会議メモ | 管理担当者が利用目的・契約条件・権限を確認するまで入力しない |
| マイナンバー、パスワード、認証情報 | 一般的な業務用AIへの入力対象から外す |
氏名を「A社」「担当者B」に置き換えても、周辺の記述から相手を特定できる場合があります。伏せ字だけで安全と考えず、作業に不要な情報を削って渡します。
個人情報保護委員会も、個人情報を入力する際の利用目的や、提供事業者による学習利用などの確認を求めています。詳しくは生成AIサービスの利用に関する注意喚起をご確認ください。
領収書や議事録を扱うなら、実データを使う前にこの確認を済ませます。担当者が迷ったときの相談先も、一覧表に添えておくと運用しやすくなります。
1つの業務を、1か月試す手順
1.繰り返し作業を1つ選び、現在の時間を測る
毎日・毎週の作業から、手順を説明でき、成果物を人が確認しやすいものを選びます。初めてなら、公開情報を使う競合ニュースの整理が候補になります。
選んだ作業について、1回の所要時間と件数を記録します。あとで比べられるよう、探す時間・入力する時間・確認する時間を分けておきます。
2.入力から確認までの手順を書き出す
「何を読むか」「何を作るか」「どこに保存するか」「誰が確認するか」を決めます。不明な情報や処理に失敗したデータを、どこへ回すかも書いておきます。
最初から自動接続する必要はありません。担当者が資料を渡し、AIが作った下書きを確認するところから試せます。結果を見て、定期実行やシステムとの接続を追加します。
3.少量のデータで試し、修正の内容を記録する
過去の資料や架空のデータで試し、読み間違い・抜け漏れ・不要な出力を確認します。実データへ進む前に、社内の利用ルールに合っているかを確かめます。
定期実行を始めたら、ログイン切れや接続エラーの際に担当者へ知らせる仕組みも用意します。失敗した資料を処理済みにせず、復旧後に再開できる状態で残します。
4.1か月後、確認と修正を含めた時間で比べる
たとえば、従来30分かかっていた作業が、AIへの準備5分・確認と修正10分になれば、人が使う時間は1回15分減ります。これは計算例であり、実際の効果は自社で測ります。
時間に加えて、誤りの件数、やり直し、ツール利用料や保守の負担も確認します。確認に時間がかかる場合は、任せる範囲や出力形式を絞って再評価します。
中小企業のAI活用でよくある質問
プログラミングができる社員がいなくても始められますか?
資料を渡して下書きを作るところから始められます。メールや台帳との連携まで進める場合は、権限設定やエラーへの対応も必要になるため、社内のIT担当者や支援会社と設計します。
3つの業務を同時に自動化した方が効果的ですか?
まず1つの業務で、確認する人と手順を固める進め方を勧めます。効果と修正の負担が分かってから、同じ型をほかの業務へ広げます。
AIが作った議事録や台帳は、そのまま使えますか?
導入時は下書き・仮登録として扱い、人が内容を確かめます。確認者、確認日、元資料を残し、確定したものと未確認のものを区別します。
ENTHRIVERのAI導入支援
ENTHRIVERでは、中小企業の業務に合わせたAI導入と業務フローの改善を支援しています。詳しい支援内容はAI導入支援のページをご覧ください。
「競合情報をまとめる時間を減らしたい」「会議の宿題を追えるようにしたい」「領収書の入力を見直したい」。いま困っている作業を起点に、AIへ任せる範囲と人が確認する手順を整理します。
相談の際は、対象の作業、月にかかる時間、使っているツールを分かる範囲でお知らせください。機密資料や顧客情報を最初から送る必要はありません。

